妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)

「ん? あぁ! そんな薄着で近づかれたら流石に怯えるわな」
「べ、べつにあなたのことなんて、怖くもなんともないわ」

 じりじりと後ろに下がり、壁に阻まれて後退できないところまで下がった。

(これならバレることはないわね)

 シルディアは壁まで追い詰められたと青い顔を作り、見張りを見上げる。
 ニタニタと笑う見張りには品性のかけらもない。
 見張りがシルディアの前にしゃがみ、ダンッと顔の横へと手をついた。

「なーんか勘違いしてねぇ? オレが優位に立ってんだよ、わかる?」

 顎を掴まれ無理やり見張りと目を合わせられる。
 ギラギラと飢えた獣のような視線に晒され、シルディアは負けじと睨み返すことしかできない。

「痛めつけられないとか、そんなんじゃねぇんだわ」

 シルディアの反応を面白がるように目を細めた見張りに、べろりと頬を舐められる。
 一瞬で嫌悪感に支配され、シルディアは息を詰めた。
 嫌だ。逃げたい。という気持ちが腹の奥底から上ってくる。

(舐められたぐらいなんだっていうの……! 洗えばいいだけなんだから、怯える必要なんてないはずなのに……。どうしてオデルの顔が浮かぶの……?)

 脳裏に浮かぶのは、優しい顔をしたオデルだ。
 シルディアに無理強いすることなく、愛を囁き続ける彼の顔が離れてくれない。
 見張りの茶色の瞳に映るのは、青い顔をした自分だ。
 情けなくて泣きそうになってしまう。

「心を折る方法はいくらでもあんだわ。なに? 痛めつけられないから安全と思った? 可愛いねぇ?」

 言われ慣れているはずの褒め言葉に虫唾が走る。

「わたしを可愛いと言っていい男は、世界中でたった一人だけよ」
「だから?」
「口を慎みなさい」
「へーぇ? まだそんなことが言えんだ? 強気な女は嫌いじゃないぜ」
「残念だけど、あなたみたいな男、わたしはごめんだわ」
「ははっ言うじゃん」

 シルディアの顎から手を話した見張りは、鼻歌を歌いながら扉の前へ戻った。

「久々に楽しめそうな女でよかったわ。大当たりじゃね?」
「あなたの基準なんてどうでもいいわ」
「良いねぇ、その反抗的な態度。ちょーオレ好み」
「はぁ? あなたになんて好かれたくもない」
「んー、あっ、こんなのはどう?」

 そう言うやいなや見張りは天井から伸びるヴィーニャの鎖を外した。
 といっても、両手両足はきっちり縛られているが。