追い打ちをかけるようにオデルは言葉を続ける。

「幼い頃に会ってるって思い出して俺の信用度上がったみたいだな。……幼い俺に嫉妬しそうだ」
「……自分に嫉妬しないでよ」
「昔会ってるってだけで懐柔されてる自覚は? 俺はあの頃シルディアに優しくした覚えはないんだがな?」
「クッキーをくれたわ。それに、毎日会いに来てくれた。わたしはそれだけで心躍ったわ」
「本当、可愛いね。……壊してしまいたくなる」
「え?」

 ぼそりと呟かれたが、隣にいるシルディアの耳には聞こえてしまった。
 聞こえていると気が付いたオデルはバツの悪そうな顔する。

「悪い。冗談だ。シルディアを一度傷つけてしまった俺が言う資格はないと思うんだが言わせてほしい」
「それはもう終わったことで、解決したことよ。オデルが気にすることはないわ。それにそのおかげで記憶が戻ったんだもの。今更責めたりしないわよ」
「ふっ。男前だな」
「前向きって言って欲しいわね。それで、何を聞いて欲しいの?」

 重厚な扉の前で立ち止まったオデルを見上げる。
 今まで見た中で一番真剣な顔つきをした彼と目が合い、シルディアは思わず見つめ返した。
 からかいの色が一切感じ取れない赤色の瞳から目が離せない。

「今の俺を好いて欲しい。俺はもう、あの頃みたいなガキじゃない。あの頃のままだと侮っていたら、痛い目に会うぞ?」

 放たれた彼の言葉は、とても真剣な声色をしていた。