「オデル……?」

 引き留められたが、何も喋らない彼にシルディアは困惑を隠せない。
 気まずげな視線を感じたのか、オデルが照れたようにはにかんだ。

「心配しなくても俺はシルディア一筋だ」
「疑ってるわけじゃないわ。わたしが……なんだか傍にいたかっただけよ」

 オデルは口元を手で覆い、はーぁと大きなため息をつく。
 怒らせてしまったかと、シルディアはぎくりと体を強張らせたが、続いた言葉に杞憂だったと知った。

「っ、シルディアは俺をどうしたいの? 可愛すぎ」
「え? えっと、あれ? ヒルスさんは……?」
「警備に戻ったぞ。見てなかったのか?」
「だ、だって、なんだか嫌だったから見てなかっ、た……」

 思ったままを口に出していた途中で、はたと自分が何を口に出したのか理解してしまった。
 尻すぼみになった言葉をちゃんと拾ったオデルは、シルディアの腰を抱いて会場の出入口に向かって歩き出す。

「あんまり可愛いこと言わないでくれるないか?」
「べつに意識して言ってるわけじゃ」
「あー……そうだろうな。まったく、なんでつがいの証が出てないのか分かんねぇ」
「?」
「俺のこと、意識してるだろ?」
「そ、そんなこと」
「俺がシルディア以外と話してるの、面白くなさそうに見てたのに?」

 クスリと笑われ、シルディアは息を呑んだ。