妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)


 一人分の空間を開けて囁き合う二人をシルディアは半歩後ろから眺める。
 黒髪の美男子と中性的で見目麗しい女性が真剣な顔で語り合う姿は目を引くものがあった。
 合理的な判断だと理解しているつもりだ。

(チェスのような色合いのわたし達よりも絵になるのでしょうね。それはなんだか……嫌だわ)

 理由は分からないが、胸の内にもやもやとした感情が溢れ落ち着かない。

(もしかして、不整脈……?)

 オデルといると通常より心臓の鼓動が早くなることがある。
 その症状と、この行き場のないこの感情は繋がりがあるのかもしれない。
 極力二人を見ないように視線を下げれば、オデルの手が目に入った。

(オデルの手、意外と大きいのよね)

 吸い寄せられるようにシルディアはオデルの肩に触れるギリギリの距離まで詰めた。
 近づいたシルディアは、そっとオデルの袖口を掴む。すると、驚いたように彼がシルディアを見た。
 ルビーのような瞳にシルディアだけが映る。
 たったそれだけで霧がかった心が晴れ渡るのだから、余計意味が分からずシルディアは眉を下げた。

(わたしは一体何を……)

 自分でも理解できない行動にシルディアは手を引っ込めようと、袖口から手を離す。
 しかし、オデルに手を捕まれ逃げられなかった。