目を瞠るシルディアを和ませるためか、隣に座っている上皇后陛下が孔雀緑の瞳で可愛らしくウインクをした。弾みで金糸雀色の綺麗な縦ロールが揺れる。
 彼女も四十代だとは思えぬ容姿で、薄桃色のドレスがよく似合っていた。
 ドレスはうら若き乙女が好むデザインだが、背中から胸元にかけて肌を晒している。
 豊満な胸元には椿が彫られており、それは背中まで続いているようだ。

「まだつがいの証が顕現しておらぬな? けれどもオデルが言うのだから、シルディアちゃんは間違いなくつがいだわな! 安心してよかろう!!」
「母上」
「にしてもオデルも面食いか! 血は争えんな!」
「母上」
「ということは、じゃ。ついに妾にも娘ができるのか!? やっと孫の顔が拝めるのだな! あっはは! 夫を長生きさせた甲斐があったというものよ!」
「母上!」
「つがいを間違えるなんてヘマするのは初代皇王ぐらいよ!」
「母上!!」
「おっとこれ以上は怒られそうじゃの」

 上皇后陛下の可愛らしい唇から溢れたのは、切れ間のない波のような言葉の数々だ。
 先程とは別の意味で目を丸くしたシルディアに、興奮を隠しきれぬ上皇后陛下はまだ喋りたそうにそわそわとしている。
 苦い笑いを零した上皇陛下が申し訳なさそうにシルディアを見た。

「だいぶ久しいけど元気そうで何よりだよ。覚えているかな?」
「父上。あの時の記憶は……」
「あぁ。そうだったね」
(記憶……? どういうこと……?)
「気にしないで。こっちの話だから。……はじめまして。皇国での暮らしには慣れたかな?」
「はい。おかげさまで」
「それはよかった」

 初めて会ったと訂正され、シルディアは内心穏やかじゃなかった。