全身黒で統一されたオデルとは対称の、白を基調にしたドレス。
 優雅さと可愛さを両立させたようなそれは、絶妙な雰囲気を醸し出していた。
 薄緑のオーバーレースには一つ一つに百合が描かれており、近くで見れば百合が目を楽しませ、遠くで見れば百合の葉を思わせる。
 白百合を連想させるようなスカート部分は、レースと同じ色に染められた一筋の柔らかな色が腰から足元にかけて流れていた。
 流れる不規則なトレーンの広がりが百合の花弁を彷彿させる。

(これぞまさに、オデルの女ってドレスよね。それに、この首飾りも)

 シャンデリアの光を浴びて輝く赤色琥珀製の首飾りが、シルディアをより一層オデルのものだと主張する。
 パートナーの瞳の色をしたドレスや装飾品は独占欲の現れで、自分のものだと周りに知らしめるものだと決まっている。
 それは古今東西、どこの国でも変わらないらしい。

 腰を少し強引に引き寄せられ、シルディアはオデルに目を向けた。
 彼にエスコートされ、漆黒の天鵞絨(ビロード)がひかれた階段を降りて行く。

「物珍しいのは分かるんだけど、俺にも関心を持って欲しいな。今からオオカミの群れの中に突撃するんだから」
「……キツネとタヌキの化かし合いの中じゃなくて?」
「女性同士だとそうかもしれないね。でも、男はオオカミだよ。覚えておいて」
「一番危険なオオカミがわたしの隣にいるんだけど……」
「ふはっ。違いない」

 オデルがこらえきれず笑った瞬間、ホールがどよめいた。

(え、なに?)
「あのオデル様が!」
「笑った……!?」
「それだけつがい様が特別だということ!?」
「これは手を変えなければ」

 シルディアの耳に届くのはそんな言葉ばかりだ。
 どうやらオデルの笑顔が珍しいようで、参加者達は悲しんだり、妬んだりと思い思いの反応を見せる。
 シルディアには色々な顔を見せるオデルだが、笑顔すら貴族に見せていなかったらしい。

(自分がオデルの特別なんだと認識させられてるみたいで、なんだか気恥ずかしいわ)

 羞恥心を感じつつもシルディアはオデルと共に階段を降り切った。
 階段下に集まっていた参加者達がモーセのように割れ、ダンスホールへの道を作る。
 当たり前のように開けた道を進み、ホールの真ん中へ辿り着くと音楽家の演奏が始まった。