「シルディア様」
「ん?」
「そんな怖い顔をなさらず、もっと笑ってください」
「……そうね」
「周りに幸せだと見せつけるのです! 皇王陛下の寵愛を受けるのは自分だと!」

 ヴィーニャがそう片手を握り込んだ。対するシルディアは心底嫌そうに眉を顰める。

「いや、それはどうなの?」
「シルディア様が昏睡しておられた一週間、付きっ切りで看病してたのは皇王様ですよ? これを寵愛と言わずなんと言いますか!?」

 握りしめた拳を高らかに上げて力説するヴィーニャに、あーと釈然としない声を上げて視線を逸らす。

「それは、そうかもしれないんだけど……」
「そう! そのお顔です!!」
「!?」
「自信なさげな目じり! 赤らめた頬! 恥じらいを隠しきれない口元! 完璧(パーフェクト)です!!」
「ヴィーニャ、あなたキャラ変わってない……?」
「こほんっ。失礼。ですが、その恥じらうお顔は大事です。はい、結い終わりましたよ」
「ありがとう」

 鏡を覗き込み、髪型を確認する。
 どうやら編み込んだ髪をハーフアップにしているようだった。
 後ろで縛られた髪の束は三つ編みにしてある。
 髪型のおかげか、ただ流れのままにおろした髪では得られなかった可愛さが出ている。

(流石フロージェと同じ顔なだけあるわ)

 まじまじと鏡を見ていれば、遠慮がちにドレスルームの扉がノックされた。
 シルディアが用意していると知っていてノックする人物は一人だけだ。