三週間後。
 今日はシルディアをお披露目のために夜会が開かれる日だ。

 ドレスルームに並ぶ数多ものドレスの中から、今夜の主役にふさわしいドレスを選ぶ。
 それは誰のものであるか一目で分かるよう、オデルの瞳と同じ色のドレスだ。
 豪放な真紅の生地がしなやかな体を包み込む。
 体の線を強調するようにぴったりと沿ったスカートはまるで薔薇の蕾のようだ。
 繊細なレースの模様が薔薇の蔓を描いている。
 ドレープとタックが花弁を模しているらしく、ワルツを踊ると薔薇が開花する仕掛けだ。
 背中の開いたデザインではあるが、色気よりも上品さを醸し出していた。
 一端を担うのは、背中を這う繊細なレースの装飾だ。レース一つ一つが薔薇の形をしている。
 そんな意匠の遊び心がたっぷりと詰まった一着だ。

(結局、背中が開いていないドレスは一着もなかったわね)

 どのドレスを選んでも背中がぱっくりと開いているため、シルディアが諦めるしかなかった。
 ヴィーニャに聞いたところ、つがいの証が背中に現れるため背中を見せなければならないとか。
 ドレス姿でドレッサーの前に座り、髪を結ってもらう。
 シルディアのウェーブがかった白髪は、そのままおろしていても絵になるため結う必要はない。
 だが、ヴィーニャが張り切って髪を結い始めたので任せることにした。

(わたしにつがいの証はない。針の筵になるのは想像に難くないわ。覚悟して臨まなければならないわね)

 鏡の中のシルディアは、おっとりとした印象を与えるような化粧を施されている。
 しかし、化粧の与える雰囲気とは裏腹に、薄い水色の瞳はすでに闘志に燃えていた。

(夜会は女の戦場だもの。つがいでなければ結婚すら出来ないこの国で、わたしが受け入れられるわけがない。どれだけオデルがわたしをつがいだと宣言しても、意味はないでしょうね)

 証という可視化されたものがあるにも関わらず、シルディアには顕現していない。
 今夜のお披露目パーティーでは、どれだけ後ろ指刺されても屈しない心が必要だろう。
 鏡の中の少女はすでに腹をくくった顔をしてる。