「では失礼して。皇王陛下はつがいであるシルディア様に嫌われたくないのですよ。きっと愛する者には格好つけなければという矜持があるのでしょう。男の見栄っ張りにも困ったものです」

 目を見開いたシルディアの耳元から離れたヴィーニャは悪戯が成功した子どものように笑った。
 彼女につられ、頬が緩む。

「男って面倒ね」
「ですね」

 くすくすと笑い合い、シルディアは自分のわがままに付き合ってくれたヴィーニャに心から感謝した。

(友人のように接してほしいって言った時は驚いていたけど、聞き入れてくれて良かったわ) 気を取り直したシルディアは本棚に目を向けた。
 書斎に来た本題は思い出話に花を咲かせることではない。

「竜の王に関してなら、神話の書物かもしれないけれど……。まずは歴代の竜の王について調べてみましょ。ヴィーニャ」
「はい」
「歴代の竜の王に関する書物を一緒に探してくれる?」
「ご要望があれば私がお持ちしましたのに」
「書庫の雰囲気を自分でも味わいたかったのよ」
「そうなのですね。では、お手伝いします」
「お願いね」
「仰せのままに」

 そうして、二人は歴史書の並ぶ棚に足を向けた。
 持てる限りの書物を両手に抱え、シルディアは書庫からリビングルームへと何度も往復したのだった。