「それで、どうして寝ていないの?」
「全く寝ていないわけじゃないよ?」

 にこにこと表情を崩さないオデルに、少し苛立ったようにシルディアが呟く。

「わかった。わたしに気を使って寝台が使えないのね」
「そうじゃないよ」
「じゃあ何だって言うの」
「俺、寝つきが悪いからさ。シルディアを起こしてしまうかもしれないと思ってね」
「そこまで心は狭くないわよ」
「……うん。ごめんね。シルディアの心が広いのは分かっているよ。これは、俺の問題だから」

 そう言ってオデルは申し訳なさそうに眉を下げた。
 しかし納得のできないシルディアは拗ねたようにソファーの上で両脚を抱える。

「わたしのこと、つがいだと言う割に秘密主義なのね」
「それ、遠回しに俺のこと知りたいって言ってるようなものだけど……自覚してる?」
「惑わされないわよ。それに、わたしはそう言ったつもりだけど?」
「! シルディアが、俺に興味を!?」
「仮につがいと認められなくても、オデルがわたしを手放すと思えない。だから、腹をくくらないといけないと思っただけよ」
「そうだね。俺はシルディアを手放すつもりはない」
「でもオデルは、わたしに知ってほしいなんて思ってないでしょ」

 シルディアが真剣な目をオデルへと向ける。
 あまり表情を変えない彼の微かな揺らぎ。
 シルディアはこの一週間で、僅かな変化を感じ取ることができるようになっていた。

(少し驚いているけど、一番は疑心暗鬼。寝込みを襲われるとでも思っているのかしら? 心外だわ)

 赤い瞳の奥に宿っているのは疑惑だ。
 誰も信じないと言わんばかりの目。
 それは皇国に来た頃からずっと変わらない。

「なにか気に障ることをしてしまったのかな? 謝るよ。夫婦円満の秘訣は、即断即決だって聞いたからね」
「それ本当に既婚者に聞いたの?」
「え? うん。そうだよ」
「わたしの思う夫婦円満の秘訣は、なんでも話す事よ。お互い秘密はなしにしましょう?」
「もう夜も遅い。それはまた明日にしよう? 早く寝ないとシルディアの綺麗な肌が荒れてしまう」
「一日の夜更かしなんて誤差よ」
「……いつにも増して積極的だね? そんなに俺のことが知りたいの?」

 隣から伸ばされた腕に抱きしめられるも、シルディアは顔色一つ変えなかった。