彼はものの数分で戻ってきた。ワゴンと共に。
 オデルとワゴンの組み合わせにぎょっとしていると、テーブルの上に食事が並べられる。
 出来立てなのだろう。
 湯気の立つスープ。ほかほかのパンにみずみずしい野菜とソースの絡まった肉が挟まり、食欲をそそる匂いが立ち込める。
 食事が並ぶすぐ横に、白を基調にしたティーセットが置かれた。
 並べられた食器はとても可愛らしいものだった。

(フロージェは可愛らしい物を好む。なのにこの上品なティーカップはわたしの好みの……。どうして? フロージェの好みが分からなかったから取り敢えず可愛らしい物を用意した……?)

 水色の百合が描かれたソーサーに、紅茶の入ったティーカップが置かれる。
 給仕をしたオデルは、当たり前のようにシルディアの隣に腰かけた。

「食べようか」
「厨房に料理人がいるのね。でも、皇王自ら紅茶を淹れるなんて、ありえない」
「大丈夫。目の前に給仕をしている皇王のがいるんだから、ありえないことじゃないよ」

 当たり前のように言ったオデルは、自身が持って来た食事に手を付ける。
 躊躇いなく食べる彼に、毒の心配はないと判断したシルディアも食事に手を付けた。

 食事が終わり、片付けを始めるオデルにシルディアは声をかける。

「一ついい?」
「もちろん。シルディアの質問にならなんでも答えるよ」
「じゃあ遠慮なく。侍女と護衛は? 見当たらないけどどこにいるの?」
「この部屋にはいないよ。あ、もちろん扉の前には見張りが立っている。でも、室内には立ち入りを許可していないんだ」
「なんで?」
「シルディアの姿を他の奴に見られたくないからに決まってるだろ?」
「それだけ?」
「それだけ」
「意味がわからない!!」

 きょとんとしているオデルは首を傾げた。まるでシルディアが叫んだ理由がわからないと言わんばかりだ。