「ひゃあっ!?」
「あ、こら。暴れるんじゃない」
「さすがにこれは恥ずかしいのだけど」
「他の男にシルディアのそんな姿を見せるわけにはいかないからな。少しだけ我慢してくれ」
「……わかったわ」

 そう言ってシルディアはオデルの胸に顔を埋めた。

「ありがとう。シルディア。君のお陰だ」

 額の辺りに口づけを落とされたシルディアは気恥ずかしさに目を閉じて寝たふりをした。

「ん? 速攻落ちた……? まぁ仕方ないか。あんだけ聖なる力を使ったんだからな」
(聖なる力? 魔法じゃなく?)

 初めて聞く単語にシルディアは疑問を持つが、後で聞けばいいかと思考を放棄した。
 なぜならゆらゆらとオデルの腕に揺られ歩いている間に、シルディアは本当に眠たくなってきてしまったからだ。
 シルディアはオデルの匂いに包まれ、うとうとと船をこぎ始める。
 立ち止まったオデルが頭を下げるヴィーニャ達へ箝口令を敷く。

「先ほど見たことは他言無用だ。わかったな?」
「承知しました」
「神話の女神様が降臨なさったのかと思いましたよ」
「お前はこれから一生地下牢で過ごすことになる。覚悟しておけ」
「おやおや。甘いですね」

 拘束された男が不敵に笑うが、オデルが気にした様子はない。

「本当は殺してやりたいが、シルディアの頼みだからな。俺を生かしてくれた女の頼みとあっちゃ断るのは無粋だと思わないか? なぁ、そこの」
「うわ!? 気づいてやがったのか!?」
「当たり前だろ。誰が生き埋めを回避させてやったと思っている」

 不敵に笑ったオデルが見張りも魔法で拘束する。

「解けよ!」
「断る」
「いいのか! オレってば、その子に唾つけてやったもんね!」
「貴方、今それは自殺行為ですよ」
「へぇ? それは知らなかったなぁ。具体的に教えてくれないかい?」
「虎の尾を踏みましたね。私は知りませんよ」
「皇王陛下は激怒すると柔らかな口調になるのですね」
「堂々と観察してないでオレを助けてくんね!?」
「嫌です」
「嫌ですね」
「親子共々ひでぇな!?」

 そんな会話を子守歌に、シルディアは夢の世界へと意識を手放した。