「シルディア様。危険です!」
「大丈夫よ」

 オデルのマントをはためかせながらシルディアは集中する。
 竜巻の中から小さく笑い声が聞こえるのは気のせいではないだろう。

「オデルを連れ戻してくるから、そこで待ってて」
「無理です! 無駄死にですよ!? 竜の怒りの前では誰もが無力なんです……!」
「っ、シルディア様!!?」

 走り出したシルディアの後ろからヴィーニャ達の叫ぶ声が聞こえる。
 それを無視して、シルディアは竜巻へと突っ込んでいく。
 勝算がないわけではない。

(オデルはわたしにも魔法が使えるって言ってた。妖法だってまともには使えなかったけど、もしわたしに魔法が使える力があるのなら……その力は、今使う時でしょう!?)

 全身が沸騰するように熱い。
 今まで抑え込まれていた力が解放されたような、シルディア自身にも訳の分からない烈しい力が、火山の爆発のように噴き上がってくる。
 激情にも似たそれを抑える術を、シルディアは知らない。
 シルディアを覆うマントが突風に攫われ、隠されていた白い肌が露わになった。

「あの紋様は……白百合ですか」
「つがいの、証……。竜の、翼」

 シルディアの背には、白百合とそれを巻き上げるように竜の翼が大きく翼を広げていた。
 二人はシルディアの背を食い入るように見つめる。
 ついにつがいの証が顕現したのだ。
 シルディアを包む光が竜巻からの攻撃を妨げる。
 一思いに竜巻へと突っ込んだシルディアは、すぐに竜巻の中心へと辿り着いた。
 そこは一切風が吹いておらず、シルディアと初代竜の王のみが佇んでいる。
 シルディアを視界に入れた初代竜の王が目に見えて狼狽した。

「どうして、その力は……ぼくのつがいの……。まさか君が、数千年以上探し求めた……ぼくの……」
「わたしはあなたのつがいではないわ。わたしがのつがいはオデルだけよ」

 つかつかと初代竜の王へと近づいて、シルディアは彼の胸倉を掴む。

「返してもらうわよ。わたしのつがい」

 そう宣言して、シルディアは愛しい彼に口づけをした。