悶えそうになる心を自制し、哀れな男へ目を向けた。

「女神を騙った女を許すほどニエルドの心は広くない」
「二度とつがいに会えなくなった竜の悲しみが貴方に理解できますか?」
「さぁな。だが俺を恨んでくれて構わない。許してほしいとも思っていないが……」
「同じ苦しみを味合わせてやろうと思ったんです。私と同じように目の前でつがいを殺してやろうと……」

 ごくりとシルディアが息を呑んだ。
 自分を殺そうとしているのだ。この反応は当たり前だろう。

「俺はシルディアを失うつもりは毛頭ない」
「でしたら、つがいの代わりに死んでいただけますか?」
「寝言は寝て言え。させねぇよ」
「交渉決裂ですね」
「はっ今のが交渉? 笑わせる。ならつがいの元へ苦しまずに送ってやる」

 突き出した手に魔力を込め、放出させる。
 男は身構える間もなく、魔力の波へと呑まれた。
 目の前の光景に腕の中のシルディアがぴくりと震え、心配そうな目を向けてきた。
 その目は本当に殺すのかと訴えかけている。

「大丈夫だ。この程度で死にはしない」
「よかった……」

 自分を殺そうとした相手にも慈悲をかけるシルディアは、自分とは比べ物にならないほど心が綺麗だと実感した。
 魔力の波に呑まれた男を魔法で拘束すれば、目に見えてシルディアがほっとした表情を浮かべる。

「シルディアは優しいな」
「わたしの気持ちを汲んでくれたオデルはもっと優しいと思うわ」
「そんなことはない。シルディアが俺を優しくさせるんだ」

 愛しいシルディアが腕の中に戻ってきたことに安堵し、彼女を抱きしめれば先ほどは気付けなかった手首の拘束に気が付いた。
 彼女の拘束に気が付かないほど切羽詰まっていたのかとオデルは内心苦笑した。

(シルディアが無事で本当良かった。いや怪我をさせてしまったんだ、無事じゃないな。あーくそ。俺の傍から離すんじゃなかった)

 オデルが自己嫌悪をしながらシルディアを拘束する縄を手にかけた瞬間。
 ぐわっと引っ張られるように、竜に飲み込まれた。

 オデルside end