妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)

 わずかな予備動作だけで行動を読まれてしまったシルディアは舌打ちをしそうになったが、何とかすんでのところで堪えた。

「何を言ってもわたしの意思は変わらない。逆鱗について、一切答えるつもりはないわ」
「凛々しいそのお姿。ぜひ皇王に見せてあげたいですね」
「……話が噛み合っていない気がするわ」
「皇王が皇王たる所以を、つがい様はご存知でしょうか?」
「皇族であり竜の王でもある竜族を、皇王に立てているだけでしょう。深い意味なんてないわ」
「甘いですね。砂糖菓子のように甘ったるい! なんと愚かなことでしょうか」
(やっぱりあまり話が噛み合ってない気がするわ。皇族の血が濃いと皆、人の話を聞かなくなるのかしら)

 歯車が噛み合わずに動かないおもちゃのように、シルディアと男の間には空気の落差があった。
 目の前の男の相手をするよりもシルディアはどうにかして階段を登らねばならない。
 時間稼ぎをしても、この場所に気付いてもらわねば意味がないとシルディアは理解している。
 じわじわと蛇に締め付けられているような感覚だ。焦りが出るのは仕方のないことだろう。

(さっきから何度も隙を見て走り出そうとしているのに、目敏く視線だけで牽制されてしまう)
「上の空ですね。しかし、私から目を離さないのは流石です」

 にこにこと笑ってはいるが、紅消鼠(べにけしねずみ)色の目は笑っていない。