「はじめましてだね。フレイア。」
ヴィーザルはフレイアにもにこやかに挨拶をする。
ヘリヤ女王と父の間には
ヴィーザル王太子の他に王女が2人いた。
ヴィーザルと初対面のフレイアは、
2人の異母姉にももちろん会ったことがない。
「お初にお目にかかります。お兄・・・いえ、王太子殿下。」
異母兄姉たちもヘリヤ女王と同じく、
自分を嫌っていると思っていたので
ヴィーザルの温かい態度は
フレイアを幾分ホッとさせた。
晩餐会の席次ではフレイアの隣はヴィーザルなのだ。

一同が席につくと、
主催のオーディンの挨拶で晩餐会が始まった。
乾杯の飲み物として供されたのは、
ビフレストの名産であるアスフォデルスの蜜酒だ。
ビフレストと国交を断絶していたアスラウグでは
一切流通していなかった代物である。
フレイアもいつか飲んでみたいと思っていたので、
内心ウキウキでグラスに口をつけた。
アルコールを感じない甘さが特徴で
まるでジュースのようなお酒だ。

ビフレスト産というだけで
胡散臭そうにグラスを見つめていた
アスラウグの面々も、
今まで飲んだことのない中毒性のある甘さの虜になり、
そこかしこでグラスに注ぎ足されていく。
その状況にご満悦と言わんばかりに
真っ赤な紅をひいた唇で弧を描くヘリヤ女王と、
「なんかやけに甘いな」と呟くヴィーザル王太子の声は
誰にも気づかれることはなかった。