私に安らぎのひと時というものがあるなら、それは間違いなくこの瞬間だ。




「はぁ……」




吹き込まれた息を吐き出して、金網に手を添えながら歩く。

カシャカシャと微かな音がして、指先が押し出されては沈み、押し出されては沈む。


私は目を瞑って歩き続け、指先に伝わる感触に意識を傾けた。

いつの間にかパチパチという雨音は弱くなり、間隔を空けて、不規則に鳴るようになっている。



雨が止む時が、私の夢が終わる時。

そんな気持ちが過って、怖くなった。


どうか、降り続いて欲しい。

私を遠くに逃がして欲しい。

そんな思いを込めて、ビニール越しに黒い空を見上げた。