「エリサラ~~~~! おかえり~~~~!」
「アリスお兄ちゃん、なんで実家にいるの!? 学校は!?」
「エリサラに会えなくて飛び級で卒業した」
「え?」

 驚きすぎて玄関ホールに入ってきたお父様を振り返って見上げる。
 すると、なんとも言えない表情でコクリ、と頷かれた。
 ええ? そんなことあるの? すごすぎない?

「よ、幼学部を卒業したら、高等部になるのではないのですか?」

 アリスティッドお兄ちゃんに抱っこされ、頬ずりをされるがままになっているわたしが改めてお父様とアリスティッドお兄ちゃんに聞くと、お父様が「高等部込みで飛び級して卒業したんだ」と死んだような目で教えてくれた。
 それがいかに常識外れなのか、半笑いの使用人たちと死んだような目のお父様の顔を見れば十分分かる。
 わたしだって、淑女教育で四年、マリア先生に指導してもらって勉強がどんなに大変なのか思い知ったもの。

「ア、アリスティッドお兄ちゃんは天才だったのですね」
「そうだよ。すべてはエリサラに会いたくて、お兄ちゃんは凡人でいることをやめたんだ」

 目が怖い。

「ユークレスお兄ちゃんは?」
「クレスはベラクリス王弟殿下の従者でもあるから、殿下とともに卒業予定だ。エリサラの婚約破棄を聞いて、ベラクリス殿下に八つ当たりしていなければいいのだが……」

 ベラクリス殿下は現国王陛下の異母弟。
 歳が十五も離れており、学園卒業後は臣籍降下予定。
 つまり、わたしにお茶をぶっかけ、片親だから結婚したくないとほざいたあの馬鹿王子の立太子がほぼ確実ということなのだ。
 この国も終わりよね。

「エリサラ、お前はおそらく五片聖女様の生まれ変わり。いずれこの国に受け継がれる『聖女の眼』の力を使えるようになることだろう。聖女の力はいつ目覚めるかわからないが、目覚めれば城に仕えることになる」
「……結局いつか城に戻ることになるのですね」
「王子暗殺する?」
「やめなさい。気持ちはわかるが……」

 アリスティッドお兄ちゃんは不穏過ぎない?
 仕方ないので「お城には優しい方もたくさんいました」とフォローする。
 実際、お城のメイドとマリア先生は厳しくもとても優しい人だったもの。
 マリア先生のことを話すと、その厳しさにアリスティッドお兄ちゃんは眉を寄せていたけれど、わたしがマリア先生のことをいかに尊敬しているのかを話すと表情は和らいでいった。
 よかった、わかってくれたみたい。

「さあ、つまらん城の話よりも、もうすぐ太陽麦の収穫祭だ。あんな王子のことは奇麗さっぱり忘れて、お祭りでなにを食べるのか考えよう!」
「はい!」