リビングに戻ると柊がお湯を沸かしていたので、


「コーヒー淹れる?私も飲む!」


と言うと、「ん」と言って、私の分のコーヒーも用意してくれた。


 柊も私も、お互いの家のものは割と我が物顔で使っている。今更気にする仲でもないし。


 柊がコーヒーを準備してくれているのを見ながら、「晩ご飯どうする?」と尋ねると、「なんでもいい」と言う一番厄介な返事が返ってきた。


「なんでもいいが一番困るんだよ~、結婚したらお嫁さんに怒られるぞ~」と、少し茶化しながら返すと、「桜の作る料理ならなんでもうまいから、なんでもいい」と言われ、少し度肝を抜かれた。なんだよ、ちょっと嬉しいじゃないか。


 コーヒーを淹れ終えた柊が、マグカップを持ってソファの前のテーブルに並べる。持ってきていた天文雑誌を広げ始めたので、私もその横に腰掛けて、柊へと体重を預ける形で寄りかかり、同じように文庫本を広げて読み始めた。


 楽しみにしていた文庫本を広げ、ああ~もう序盤からこの作家さんの文章好き~とうきうきで読み進めていると、柊が隣で大袈裟にため息をついた。


「あのさ」


「ん?」


と私が顔を上げると、気が付いたらソファに押し倒されていた。


「…え?」


 自分の状況が分からず、私はきょとんとするばかり。私を見下ろすように柊の顔が真上にあった。