「ただいま~」
「あら、おかえり」
家に帰ると、母が慌ただしく出勤の準備をしていた。
「あれ?今日明日仕事お休みじゃなかったっけ?」
そう尋ねると、母は眉尻をこれでもかと言うくらいに下げた。
「それが急な人員不足で、急に泊まり込みになっちゃったのよ」
母は病院に勤めていて、休みの日に呼び出されることもしばしばあった。母が忙しいことは承知しているので、家のことは大抵一人でできる。もう高校生だしね。
「そっか、じゃあ今日の晩ご飯は私とお父さんの分だけ用意すればいいのね」
何を作ろうかなと思案を始めたところで、お母さんから補足情報が入る。
「それが今日はお父さんも仕事で帰れないって」
「え、そうなの?」
「桜ひとりだなんて初めてでしょう?心配で、如月さんに頼んでおいたから」
ん?如月さん?
矢継ぎ早に投げられる情報に困惑していると、タイミングよく玄関のチャイムが鳴った。
「あ、来た来た」と言って、母は玄関へ向かう。不思議に思いながらも、私もその後ろをついて行った。
「いらっしゃい」と母が歓迎していたのは、
「柊?」
「こんにちは」
天文雑誌を小脇に抱えた、先程別れたばかりの柊だった。



