私がジャージに着替えてリビングに行くと、柊はベランダに出ていた。ベランダから、夜空を見上げているようだ。私もベランダに出て、柊の横に並ぶ。
「流星群、見れそう?」
そう声を掛けると、柊は嬉しそうに星空を指差した。
「うん。あれがオリオン座で、桜もオリオン座はわかるだろ?」
「うん」
「オリオン座の左上を放射点として、一時間に十個以上見られるはずなんだ。天気もいいし、きっと見られるよ」
星が大好きで嬉しそうに話す柊をいつも見てきたはずだった。けれど、なんだか愛おしいと感じるのはなんでなんだろう。
私は空を見上げる柊の右手に、そっと自分の指を絡ませた。びくっと身体を揺らした柊は、驚いたように私を振り返る。
「桜?」
「えっと、朝、こうやって手繋いでくれたでしょ?あれ、実はすごく嬉しくて、その、また柊と手を繋ぎたいな、って思って」
そう照れながらも正直な気持ちを伝えると、柊は私の肩を優しく掴んだ。
柊の顔が近付いてきたかと思ったら、そのまま優しくそっと触れるだけのキスをされた。
頬どころじゃなく、全身が熱くなっていくのを感じる。
「あ、」と柊がしまったと言うような表情をした。
「悪い…桜のペースに合わせるって、言ったばかりなのに。可愛くてつい」
そう申し訳なさそうにする柊が可笑しくて、私は笑ってしまった。
柊の頬に私も思い切ってキスをした。
「ありがとね、いつも気遣ってくれて。これからゆっくり幼なじみから恋人になっていこ!焦ることないよね、私達、これからもずっと一緒にいるんだしさ!」
そう言うと、柊は困ったような顔をしてから、穏やかな笑みを浮かべた。
「そうだな。俺達は、俺達のペースで恋人になっていけばいい。…いつまで我慢できるか分からないけど…」
私達はまた手を繋いで、空を見上げた。頭上には満天の星が輝いている。オリオン座の近く、つーっと光の筋が流れて消えた。
「見た!?」
「見た」
柊と初めて一緒に見た流れ星だった。あっという間に消えてしまった流れ星ではあるけれど、私は、この先もずっと柊と一緒にいられますように、と強く願った。
握った手からお互いの熱を感じながら、私達はまた優しい優しいキスをした。
こうして私達は、幼なじみから恋人への第一歩を踏み出したのだった。
終わり



