幼なじみと恋をするには


 晩ご飯とお風呂を終えて、ゆっくりとしていた夜八時頃。家のチャイムが鳴った。


 誰だこんな夜遅くに~と思いながらも重い腰をあげ、モニター付きインターホンの前に立つ。


「はい」と出ると、そこにいたのは柊だった。


 私は慌てて玄関へと向かい、ドアを開けた。


「柊?どうしたの?今日は天文部の活動日だよね?」


 柊は走って帰ってきたのか、髪は少し乱れ、息を切らしていた。


「桜、なんで連絡くれなかった?」


「え?」


「今日もおじさんおばさん、家にいないって」


「あー、うん。今日も二人とも仕事になっちゃったみたいで」


 柊のママから聞いたのかな。


「え、それでわざわざ急いで帰ってきたの?」


 いつも何よりも楽しみにしていた天文部の活動日だ。それなのに私のためにわざわざ急いで帰ってきたのだろうか。


 柊は少し怒ったように、私を睨みつけた。


「そりゃそうだろ!桜一人にして何かあったらどうするんだよ!」


「え、ご、ごめん」


 柊が声を荒げるなんて、あまりにびっくりして咄嗟に謝ってしまった。


「今日みたいな日は、すぐ連絡して」


「はい…」


 はっと我に返ったように冷静さを取り戻した柊は、「今日も泊まるから」と言って玄関を上がった。


「あ、えっと、何か食べる?さっき作った肉じゃがなら残ってるけど」


「ん、食べる」


「準備するね」


 私は慌ててキッチンへと向かう。詰めていた息を、柊に気が付かれないように吐き出した。


 びっくりしたぁ~!なに?どういうこと?私が今晩も一人だって聞いて、慌てて帰ってきてくれたってこと?心配してくれたってこと?天文部の活動があったのに、好きなものより私を優先した?あの柊が星より私?


 その事実が未だに信じられない。しかし実際そうなのだ。彼は楽しみにしていた部活動よりも、私を優先したのだ。


 信じられないと言う驚きと、ああでもそれよりも、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。


 私は緩み切った頬を見られないよう、柊に背を向けながらご飯の支度をした。