「もう、なんだかこの二日間でものすごく老け込んだ気がするよ、私」
放課後。そうぶつぶつ文句を言いながら黒板を掃除していると、横で同じように黒板掃除をしていたクラスメイトの三浦くんがおかしそうに笑った。
「なんだそれ。結城ってたまに変なこと言うよな」
今日私は日直の当番であった。日直が一緒の三浦くんに、自然に愚痴を零してしまった。
「三浦くんってさ、みおちんの幼なじみなんだよね?」
私がいつも一緒にお昼ご飯を食べている友人の一人である、みおちん。三浦くんとみおちんは、私と柊と同じように家が隣同士の幼なじみだと聞いたことがあった。
「え?ああ、そうだけど」
「幼なじみに、恋愛感情を抱いたりするもん?」
「えっ」
私のストレートすぎる質問に、三浦くんは一瞬固まった。
柊には鈍いと言われた私だけれど、実は三浦くんがみおちんのことを好きなのではないかと薄々思っていたのだ。同じ幼なじみを持つ者同士、男の子の意見を聞けば、柊の考えていることが分かるのではないかと思った。
三浦くんは困ったように、慎重に言葉を選んでいるようだった。
「あー、えっと、まぁ、そういうこともあるかもな」
「ふむふむふむ、じゃあさ、あのその、」
これはさすがに聞くのに勇気のいる質問だ。みおちんの幼なじみだし、三浦くんは人のこと他人にべらべら喋らないと思うから、思い切って聞いてみる。
「三浦くんは、みおちんにえっちな気持ち抱いたりする?」
「はぁ!?」
三浦くんはこっちが驚くくらいに顔を真っ赤にした。
ふむふむなるほど、それが答えね。
男の子ってそうなのかな。柊も、私のこと女の子として見てるって言ってた。柊ももしかして、私をえっちな目で見てたりする?うわ、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
私、彼女としてちゃんとやっていけるか不安だな。柊が思っている彼氏彼女像になれる気がしないよ。
うーんと頭を抱えてしまった私には構わず、三浦くんは咳払いをすると、「結城が何に悩んでるのか知らないけど、」と口を開いた。
「日直とはいえ、あんまり俺と話してると良くないんじゃね?相手如月だろ?」
「うぐっ」
三浦くんにもばれてた…。私ってそんなに分かりやすい?
「大丈夫だよ、柊なら今日は天文部の活動があるって言ってたし。今頃地学室で天体望遠鏡いじって遊んでるよ」
男子と話してるだけで嫉妬するような男ではないでしょ。そこまで私に執着心があるとも思えない。それにあいつは度を過ぎた天体オタクなのだ。私が星より大事なわけない。
日直の仕事を終えた私は、一人で家へと帰った。
最近はずっと柊と一緒だったからか、なんだかちょっとだけ寂しかったけれど、そんな気持ちには蓋をして、今日の晩ご飯のメニューを考えることにした。



