どれくらいそうしていたのか、柊が不意に口を開いた。
「桜の心臓の音、すごいな…」
その言葉に、私の体温はまた一気に上がった。あまりの恥ずかしさに思い切り柊を突き飛ばしてしまう。
「えっち!」
「心臓の音を聞くのもエッチに入るのか、知らなかった」
「うるさいなぁ!乙女のなにもかもに触れることはえっちなことなの!」
「そうかよ、それは悪かった」
恥ずかしさのあまり、いつものように可愛くない返しをしてしまった。少し後悔していると、柊は嬉しそうに笑った。
「元気になったならよかったよ」
「…おかげさまで」
「で、俺に抱きしめられてドキドキしたんだ?」
「ぐっ…」
柊はふむふむ言いながら、そうかそうかと満足そうに頷いている。
今日の柊は変だ。私なんてもっと変だ。幼なじみの私達は、こんなじゃなかったのに。
「もう!なんか腹立つ!」
「いてっ」
柊の腕に右ストレートをかましてやった。
そんなやりとりのあと、しっかりと戸締りを確認して、私達は寝る支度を整えた。私は自室に、柊はリビングで寝ることになった。当然乙女の部屋になど入れてなるものか。今日の柊は特に危ない。寝る時だって油断できないんだから。
布団に潜っても、やっぱり結局上手く眠れなかった。



