「ハイ、晩ゴハンデキタヨー」
あんなことがあってキャパオーバーした私は、無心で晩ご飯を作った。
平皿に白米とカレーを盛り付けて、台所のテーブルに並べる。
柊は読みふけっていた天文雑誌から顔を上げるとこちらにやってきて、嬉しそうにカレーを見つめた。
「うまそう。悪いな、ごちそうになって」
「いいんだヨ。こちらこそお母さんが無理に声掛けてゴメンネ」
「あ、福神漬ケ福神漬ケ」と言いながら、私は冷蔵庫から福神漬けを取り出すと、柊の向かいに座った。二人で手を合わせる。
「いただきます」
嬉しそうにカレーを頬張る柊をちらりと見ながら、やっぱり先程のことを思い出してしまう。
柊、本気で私のこと好きだったんだ…未だにどう接していいか分からない。だって、昨日まで家族みたいな関係だったんだよ?それが急に恋人だなんて言われても。
恋愛経験なんて全くない私である。少女漫画も、恋愛小説も読んでこなかった。こんなことなら、人が次々に死ぬミステリー小説ばかり読んでるんじゃなかった。知識がなさすぎる。彼氏彼女ってなにするの?彼女らしいってなんだ?彼女のふるまいとは、で検索させてくれ。
そんなことを考えながら食べるカレーは、全く味がしなかった。
いつもは騒がしく喋っている私が静かなせいか、柊が不思議そうに声を掛けてきた。
「桜、どうした?」
どうしたもこうしたもない。私が何に頭を抱えているか分かるか?君だよ、君。
なんてことは直接言えないので、いつも通り平然としている柊を少しだけ睨みつけてやった。
すると柊は、また嬉しそうな表情を見せる。
「そうか、桜もやっと俺のこと男として意識したか」
「んぐっ!」
危く口から飛び出そうになったカレーを慌てて麦茶で流し込む。
柊は尚も薄く笑いを浮かべている。
「桜、鈍いとは思ってたけど、意外と押しに弱いんだな」
「な!べ、別にそういうわけじゃ」
「じゃあ、相手が俺だから?」
「え?」
柊だからこんなにドキドキする?そんなわけない。柊とはずっと幼なじみでずっと一緒にいたんだから。



