木々が少しずつ色合いを変えて、金木犀の香りが漂う心地のいい気候になった今日この頃。


 その日は突然にやってきた。


「俺達、いい加減付き合わない?」

「ん?」


 放課後。私は幼なじみの如月 柊(きさらぎ しゅう)と、コンビニで買った肉まんとあんまんを半分こにしながら、近所の公園のベンチに腰掛けていた。池にぷかぷか浮いているカモを、肉まんを齧りながら見ていた時のことである。


「付き合う?どこに?」


 そう聞き返すと、柊はだるそうにもう一度先程の言葉を繰り返した。


「だから、俺達付き合わないかって。彼氏彼女になろうって話」


「……はい?」


 何を言っているのだこの幼なじみは?私と柊が彼氏彼女?


 私、結城 桜(ゆうき さくら)と如月 柊は、マンションの部屋が隣同士の幼なじみで、小さい頃から一緒に育ってきた。周りからはよく付き合っていると誤解されることはあったけれど、そんな雰囲気も素振りもこれまで一度もなく、お互い家族のような親友のような気楽な関係なのだと思っていた。


「まじ?」


「マジ」


 冗談だよ、と返されるかな、と少し思っていたのだけれど、柊は大真面目に返してきた。


「そっか…」


 私はベンチに背を預け、空を見上げた。見事な秋晴れであった。うろこ雲って言うのかな、小さくて真っ白な雲が、ふわふわとたくさん浮かんでいた。


「もっと情熱的な告白は思いつかなかった?」


「ん?」


「私、男子に告白されるの初めてだったんだけど。もっとこう、『桜ちゃんのことがずっと好きだったんだ!』とか、『もうお前しか見えねえ、俺の女になれよ』とか。告白ってこんな感じだと思ってたんだけど」


「それ、なんの乙女ゲー?」


「…ふむ」


 柊は呆れたような表情を浮かべながら、浅くため息をついている。今まさに告白した男とは思えない態度である。


 夢見すぎだった?現実の告白ってこんな感じ?