「伊沢さん、何がいいですか?」

福岡の市街地にあるオシャレな創作料理の店で、伊沢は6人のCAに囲まれていた。

「このお店、海鮮丼が美味しいですよ」
「あ、じゃあ、それを」
「それと、地鶏の串焼き!絶品ですよー」
「あ、じゃあ、それも」

伊沢は言われるがままに頷く。

(やっぱり苦手だなー、こういうの。慣れてないもんな、俺)

思い切って来てみたはいいが、やはり場違いな感じがして居心地が悪い。

「ねえ、伊沢さんって、やっぱりコーパイの藤崎さんとつき合ってるんですか?」
「そうそう!あの噂、私達ずっと気になってたんです」
「どうなんですか?本当のところは」

運ばれてきた料理もそっちのけで質問攻めにされ、伊沢は戸惑う。

「ああ、えっと…。彼女とは、航空大学校の頃からの同期なんだ」
「へえー、それだけ?」
「えっと、どうだろう」
「何ですか?それ!」

伊沢は責められた気分になる。

(うーん…。まだつき合ってることにした方がいいのかな?そうすれば、恵真に言い寄る男も減るだろうし、佐倉さんとの仲も隠せる)

その時、またあのこずえのセリフが蘇ってきて、思わず振り払うように頭を振る。

「え、違うんですか?あの噂」
「あ、いや、その…。まあそうかな」

だんだん声が小さくなるが、CA達は嬉しそうな声を上げた。

「じゃあ伊沢さん、今はフリーなんですね?」
「どんな子がタイプですか?」

いや、その、別に…と言葉を濁す伊沢の周りで、CA達はどんどん話を進める。