(虎太郎視点・回想シーン含)

遂に見つけた、俺のジャンヌダルク。

高校2年の2学期がスタートした日。
3時間ほど学校の道場で稽古をして、母親が入院している病院に見舞いに行く途中で、彼女を見つけた。

長年子宮筋腫による痛みで悩まされていた母親が、10日ほど前に手術を受けた。
子供が夏休みということと、大きな大会が暫くないことが決めてだったらしい。

普段なら駅を利用しない時間帯。
利用したとしても、部活の仲間と一緒だから気付かなかっただろう。

あんな風に、運命とも思える再会ができたのだから。


香椎 雫。
俺より一つ上で、小学生の頃に俺らは出会っている。

俺は今でこそ周りから目を惹くほどの体格だが、小学生の頃は線も細く、身長も平均より遥かに低かった。
どんなにたくさんの牛乳を飲もうが、毎日どんぶり飯を何倍もおかわりしようが、体は小さいままで。

父親が元オリンピックメダリストということもあって、周りからの期待がかなりあった。

空手は大きいほど有利というわけではないが、手足の長さ(リーチ)はやはりあった方が断然に有利で。
小さいながらに俊敏に技を繰り出せるように日々鍛錬していたけれど、試合結果は散々なもので。

とある大会で初戦敗退した時に、あまりにも悔しくて。
『もうやりたくない』と、試合会場の非常口の扉の外で一人涙した。

その時に優勝メダルを首から外し、わざわざ結び目を解いて『縁起物だから』と、俺の手首に結んでくれたのが彼女だ。