「大聖母」のときにこういう市に行ったことはなかった。それどころか、皇都に出かける機会がなかった。ウインザー公爵邸と皇宮にある「祈りの間」を往復するだけで、外の空気に触れるのは、その道中だけ。馬車を融通してくれるわけがなく、というか「大聖母」は歩くのが当たり前と謎の認識をされていたから、徒歩で往復する際にはわざとゆっくり歩いたりした。

 もっとも、公爵邸から皇宮までは近い。だけど、皇宮の門をくぐってから宮殿内にある「祈りの間」までの距離は永遠だった。ときどき「大聖母」を信仰している皇宮の庭師や雑用係や近衛隊の隊員に荷馬車で送ってもらえるようなときは、幸運だった。

 そういうわけで、これだけの広場や多くの店や大勢の人々を見ることは、刺激的かつ新鮮すぎる。