猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない



 そうして、今。
 予定通り、卒業式の一週間前である今日、アリアナはアリアナを誤解する人間に糾弾され、その心を弱らせた。
 そこにつけこみ、アリアナの「好き」を引き出した。これほど幸せなことはない。

 アリアナに手をあげようとした女子生徒の顔は覚えた。許すつもりはありはしなかった。たとえそれが、正義感からした行動だろうと。
 けれど、今はただ、このしあわせに浸っていたい。

 フリードリヒは、おのれの緑の目が、猛禽よりもなお鋭く、氷のように冷徹に細まっていたのを、内へ、内へと隠して、やわらかなまなざしで腕の中のアリアナを見つめた。
 アリアナは、知らないでいい。フリードリヒの、この妄執めいた想いを。

 けれど、そう、もしも知るなら、もう逃げられなくなってからがいい。
 そうーーフリードリヒの想いにがんじがらめになって、逃げられないようになってから――フリードリヒの本性を知ってほしい。

 焦げ付くような想いを――君を、どれほど深く、愛しているのかを。
 君を、必ず幸せにすると誓うよ。

 ――……猛禽令嬢だけが、王太子の執愛を知らない。
 今は、まだ。