猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

 物心がついたころ、フリードリヒに引き合わされたアリアナは、フリードリヒにたった一日で恋をした。
 その頃はそれが恋なのだとわからなかったけれど、今ならそれがはじめてアリアナが抱いた恋心なのだと断言できる。

 幼いころ、詰め込まれる礼儀作法の授業がつらくてむすくれていたアリアナに「僕も実は苦手なんだ」と笑ってくださったあの瞬間、アリアナはフリードリヒを好きになった。

 たったそれだけで何を、と思うかもしれない。でも、アリアナにとって、その言葉は、笑顔は、人生を変えるに値するものだった。

 だから、その日、茶会の場に現れた刺客からフリードリヒをかばって飛び出すことになんの迷いもなかったし、その刺客にナイフの刃先で切り付けられた際に後頭部に負った傷のせいで面差しが変わってしまっても後悔なんてしなかったのだ。

(……けれど、この変わってしまった顔のせいで誤解を生みやすくなったことは、事実なのよね……)