あめのふるひる〜平安の世で狐に嫁入りをした姫君の話〜

 東宮の添い伏に内定していた左府の大姫が攫われたと、その知らせが人の口に上ると同時に、京の都は騒然となった。
 かぐや姫に劣らぬほどの美しい姫君は、けして邸からでることがなく、厳重な警備の元、大切に育まれてきたのだ。
 それがあるとき、まるで景色に溶けるように消えてしまった。
 うわさ好きの人々はいう。駆け落ちでもしたのじゃないかと。
 ただひとり、姫君の乳兄弟たる女房だけは、姫君が狐に攫われたのだと言い張っていた。
 あやかしのもとから助け出さねばと。
 しかし、左府から、大姫の代わりに中の君を添い伏に、という決定がでたことで、やがて、失踪した姫君のことなど人のうわさにも上らなくなった。
 今は昔、狐の花嫁になった、雨降りの姫君の話。