あめのふるひる〜平安の世で狐に嫁入りをした姫君の話〜

「そなたが私を好もしく思っているから、そうなるのだ」

 心から嬉しそうに、わずかな吐息とともに笑う人影を見上げると、少女もなんだか嬉しくなってしまった。

「だんなさまも、わたしのことが好き?好もしいと思っていらっしゃる?」
「勿論」

 短いことのはに、胸の奥、ずっとふかいところにあるものをすべて乗せたようなひとこと。
 ああ――ああ。口の端があがってゆく。
 目が細まって、少女の頬は真っ赤になった。
 知らず微笑んだ。少女に、人影は一瞬目をみはったあと、満足げに笑み、そういえば、と続けた。

「そなたの名を聞いておらなんだな」
「わたし?おひいさまよ」
「そうではない。……そうか、知らぬのか」