○翌朝。心菜の家の玄関
颯真「心菜。もう一度確認だけど、俺らが一緒に住んでることは、学校では絶対ナイショな。あと、実習中は俺らが幼なじみだってことも……」
心菜「分かった。誰にも言わないよ」
颯真「ああ、そうしてくれると助かるよ。それじゃあ俺、先行くわ」
パタンと家のドアが閉まり、颯真が先に学校へと向かった。
○学校・2年C組教室。
女子1「相川先生、おはようございます」
颯真「おはよう」
女子2「先生、今日もかっこいいですね」
颯真「……どうも」
朝のホームルーム前に教室にやって来た颯真に女子生徒が声をかけるも、颯真は無表情。
その様子を、心菜は自分の席から見ていた。
心菜(昨日あのあと颯真くん『おかわり』って言ってキッチンに戻ってきて。更にフィナンシェを2個も食べたんだよね)
心菜(だから、今日友達にあげる分が減っちゃった)
心菜(学校では颯真くん無愛想だから、甘い物とか苦手そうに見えるのに。意外だよね。甘い物がすごく好きだなんて)
拓弥「なに、ボーッとしてんだよ心菜」
心菜の元に来ていた拓弥に肩を軽く叩かれ、そばに拓弥がいたことにようやく気づく心菜。
心菜「ごっ、ごめん。ちょっと考え事してて」
拓弥「悩みでもあんのか? 俺で良ければ聞くけど」
心菜「ありがとう。そうだ! 拓弥、今日誕生日でしょ? これ、作ってきたの」
心菜が青いリボンでラッピングされたフィナンシェを慌ててカバンから取り出す。
拓弥「え、何? もしかして俺にくれんの?」
心菜「うん」
心菜がフィナンシェを手渡すと、拓弥の顔がパッと明るくなる。
拓弥「マジか。これ、心菜の手作り?」
心菜「そうだよ。誕生日おめでとう。ケーキじゃなくてごめんね?」
拓弥「ううん、めっちゃ嬉しい。サンキュー、心菜。もったいなくて俺、食えねえかも」
心菜「えー? 拓弥ってば喜びすぎじゃない? ちゃんと食べてよね」
颯真「……なんだ。昨日心菜の言ってた友達って、男だったんだ」
ボソッと呟いた颯真の言葉は、周囲の生徒の声にかき消される。
颯真「あいつら、けっこう仲良さそうじゃん。ちょっと妬けるな」
心菜と拓弥が笑い合う様子を颯真が見ていたことに、このときの心菜は気づいていなかった。