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 近頃ネル君は、一時間だけお店の手伝いをするとそそくさと帰ってしまう。
 二時間くらい看板息子として手伝って欲しいとお願いしているので必ずしも二時間のお手伝いという訳ではないし、何をするのは彼の自由。……ではあるけれど、コミュニケーションを取る時間がなくなって悶々としてしまう。
 昨日だって一時間だけお手伝いをしたら好物のクッキーを数枚紙袋に入れて足早に帰ってしまった。

 プライベートを詮索されたくないネル君に、どうしてお手伝いの時間が短くなっているのかなんて聞きにくいし、こちらが咎めているようにも捉えられかねないので迂闊に口にできないでいる。
 ネル君の代わりといっては何だけど、アル様とお茶をする時間の方が増えている。
 アル様はウィットに富んでいるから話をするのはとても楽しいし、試作したお菓子について率直な感想を述べてくれるのでその存在は非常にありがたい。ネル君同様に容姿が整っているので彼と鉢合わせした女性のお客様は必ずほんのりと頬を上気させ、見惚れてしまっている。