はじめこそアルの目にはシュゼットがおかしな令嬢に映っていた。貴族令嬢が始めた気まぐれな道楽だと信じて疑わなかった。だが、お菓子に注ぐ情熱や直向きに努力する姿を見ているとそれが間違いであることに気づかされた。
 アルがシュゼットを応援するようになるのに時間はさほど掛からなかった。

 もっと一生懸命なシュゼットを見ていたい。

 アルはほぼ毎日シュゼットのお菓子を食べにパティスリーへ向かう。アルにとって()()()()()()という理由もあるけれど、お茶とお菓子を堪能しながらシュゼットと楽しい一時を過ごしたいという気持ちが大きい。


「……さてと。大人の姿になったことだし、美味しいお菓子をいただきに行きますよ――お嬢様」
 うっとりした表情を浮かべたアルは王宮の外に出ると、人目につかない場所に隠れて指を鳴らす。と、一瞬で人気(ひとけ)のない路地裏に移動する。路地裏から出ると正面にはシュゼットが営むパティスリーが佇んでいる。

 アルは軽やかな足取りでお店へと歩き始める。
 そして、今日も閉店間際になったお店のドアベルを鳴らすのだった。