没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~



「――……力を取り戻すことができれば、例の物は一発で探し出せるんだけどな」

 ふうっと息を吐くアルは握り締めていた拳をゆっくりと開く。
 歯がゆいことに今はまだ元の状態の三分の一にも満たない。やっと数時間だけ動ける身体にはなったけれど、それだけでは足りない部分が多い。

 ――せめてあと半分くらい力が戻れば、国王陛下の依頼も完遂できるんだけど。
 困ったなあ、と心の中でぼやいていると棚の上の置き時計が視界に入る。針の位置を確認すると既に終業時刻は過ぎてしまっていた。


「いけない。そろそろ彼女のお店に行く時間だ」
 アルは机周りを整理整頓すると、はめていた腕章を引き出しにしまった。壁に引っかけていたコートに袖を通すとボタンを留める。

 まほろば島で暮らしていたアルはメルゼス国の通貨を持ってはいなかったが、島から持ってきていた鉱物石を商業ギルドで換金していた。懐にお金が充分あることを確認すると、アルはいそいそとシュゼットのパティスリーへと足を運ぶ。

 ――今日は一体どんな可愛いケーキが食べられるのか。……楽しみだ。
 アルは生き生きとした表情でお菓子を説明してくるシュゼットの姿を思い出すと、フッと笑みを零す。