ラナは厨房勝手口の脇に置いていたレインブーツへ靴を履き替え、壁に掛けていたお遣い用の手提げ袋を手に取る。
「それではお嬢様、行って参りますので閉店作業の方をお願いしますよう」
「待って。馬車の代金を渡しておくわ」

 私は馬車に乗れるように銀貨を一枚差し出した。
 小雨になったとはいえまだ雨は降り続いている。商会までは結構な距離があり、途中また本降りになったらラナが風邪をひいてしまうかもしれない。
 ところがラナはそれを突っぱねて決して受け取ろうとしなかった。


「馬車なんて使わなくても平気ですよう。私にはレインブーツとレインコートがあるので大丈夫です。このお金は借金返済の足しにしてくださいませ」
「だけど……」
「それでは行って参りますよう」

 ラナは私が反論する前にレインコートを引っつかんで出ていってしまった。