「あなた、店員なのにちゃんとした受け答えもできないの? 一体どんな教育を受けたのかしら?」
「お嬢様の仰る通りです。接客すらできないなんて……いいえ、きっと能力が低いからこれが精一杯なんでしょうねえ」

 二人の会話を聞いて私は腹が立った。
 お菓子に難癖を付けられるのは悲しいことだけど、一人一人感じ方や捉え方が違うからそれは仕方がないと思う。だけどラナを虐めるのは許せない。

 ――ラナを怯えさせているのはあなたたちじゃない。これ以上は見ていられないわ!
 私が厨房から店内へ飛び出そうとしていると可愛らしい声が店内から聞こえてきた。


「お嬢様、店員さんを困らせたらダメだよ。令嬢としての品性が疑われるの。あと批評するならこのとーっても可愛くて美味しいウサギさんのフィナンシェを食べてみてからにして」

 一瞬、誰が声を発したのか分からずその場にいた全員がぴたりと動きを止める。
 声の主へと全員が視線を向けると、ショーウィンドウの脇には以前夜の森で出会った少年――ネル君が立っていた。