「悪いのは秘宝を盗んだカリナ令嬢だけど、僕にも責任がある」
 だから本当にすまない、とアル様はもう一度謝ってきた。
 私は俯くと目を閉じた。
 アル様が献身的に支えてくれていたのは私が命の恩人だったから。毎日パティスリーに足を運んでくれていたのは一刻も早く枯渇した魔力を取り戻すためだった。
 彼の思惑が分かった途端、自分が心底がっかりしていることに気づく。
 私は唇を噛みしめて表情が歪みそうになるのを必死で堪えた。

 ――アル様は私を助けてくださった。……もう、それで充分じゃない。
 彼の私に対する好意がゼロであることがここではっきりした。
 嗚呼、良かった。
 これで告白なんてすればアル様を困らせることになっていただろうし、私はフィリップ様の時の二の舞になっていた。いや、今度はそれ以上に傷つくことになるだろう。
 この関係が壊れてしまうくらいなら、自分の気持ちを隠した方がましだ。
 これからも側にいられるならそれでいい。
 そう言い聞かせているのに胸が堪らなく苦しくなって息が詰まりそうになる。
 ――やっぱり私は恋愛や結婚にことごとく縁の無い女ね。
 自嘲気味に笑っていると視界がぼやけてくる。涙が零れ落ちそうになるので耐え忍んでいると、アル様の手が私の両頬を包み込んだ。