カリナ様は俯いて両目に手を押しつけると、やがて顔を上げて綺麗に笑った。そして息を吐くと今度は憑きものが落ちたようにさっぱりとした態度で近衛騎士に告げる。
「――詳しいことは取調室で話します。どうぞ連れて行ってください」
 近衛騎士に連れられて会場を後にする。彼女の表情はこれまでと違ってどこか晴れ晴れとしていた。
 カリナ様の姿が見えなくなるとフィリップ様がやれやれこれで一件落着だと言わんばかりに両手を広げる。
「ふぅ。まさかカリナがあんな女だっとは。どうやら俺はすっかり騙されていたみたいだ。……これで家名に泥を塗らずに済んだ」
 良かった良かったと安堵するフィリップ様に近衛騎士が水を差した。
「いや。あなたにも逮捕状が出ているからこれから一緒に来てもらわないといけない」
「ふぁっ!?」
 近衛騎士の発言にフィリップ様が困惑していると、朗らかな笑みを浮かべるエードリヒ様がぽんとフィリップ様の肩に手を置いた。

「君は昨日市場のいちごを買い占めただろう。買うのは君の自由だが市場のいちごをすべて買い占めるというのは独占に繋がる。そういった行為は法律で禁じられていることを、まさか伯爵ともあろう君が知らないはずあるまい? そして私が調べたところによれば、いちごをすべて出すよう商会を脅したそうじゃないか。なあ伯爵、私と取調室でじっくり話し合ってみないか?」
 権力者に弱いフィリップ様がエードリヒ様に凄まれて反論できるわけがない。
 身体を縮こませて顔面蒼白なフィリップ様は、大人しく近衛騎士に場外へと連れられて行った。
 会場には未だ大勢の招待客が集っているのに、誰も一言も発さない。ただ呆然とことの顛末を見聞きして観劇でも見ている。そんな錯覚状態に陥っているようだった。
 結局、最後はエードリヒ様の「これにて解散」という号令によって婚約パーティーはお開きになった。