誰も口にはしないけれど、宝物庫管理は別名窓際職とも言われている。その理由は模様替えや催し物が無い限り普段は暇を持て余している部署だからだ。
「俺が窓際職なわけないだろう!? 人望があるからに決まっている! 皆さん、そうでしょう?」
 問いかけられた招待客たちは気まずそうに目を泳がせた。ここに集まった彼らはただ建前として集まっているに過ぎないようで、特にフィリップ様と関わりのある同僚たちは鼻を掻きながら明後日の方向を見ている。
 お父様はフィリップ様の職務態度について一切教えてくれなかったけど、今アル様の話を聞いていて普段の仕事ぶりを垣間見た気がした。

 こんな人が上司や同僚にいたら絶対に一緒に仕事をしたくないし、関わりすら持ちたくない。私がフィリップ様と一緒に働く人たちに同情しているとアル様がカリナ様の前に立って腰に手を当てた。
「さて。話が脱線してしまったけどカリナ令嬢、一緒に王宮まで来ていただけるかな? 宰相に犯人が見つかったと報告をしないといけないんだ」
「わ、私は王家の秘宝なんて盗んでないわ! レプリカだって言っているでしょ?」
 あくまでも自分は犯人ではないと主張するカリナ様。本物の秘宝をこの目で見たことがある人はここにはいないし、レプリカだと言われてしまえばそれまでだ。
 まだ彼女を犯人だと裏付ける確固たる証拠がない。
 アル様は顎に手を当てて「なるほど」と呟くと指を鳴らした。
「なら、指輪が本物かどうか調べよう。鑑定士を呼んでおいたからすぐに見てもらえる」
「か、鑑定士?」

 カリナ様が聞き返していると突然会場入り口付近が騒がしくなった。続いて人垣がぱっと割れて道ができると、入り口からよく通る声が響いた。