ネル君が女の子と見間違うくらい可愛らしい美少年だとしたら、こちらは絵本の中から出てきた王子様のように美青年だ。あまりの美しさにその場にいた招待客全員がが言葉を失っていた。
 けれど、その姿を見た私はただ呆然とその場に立ち尽くしていた。だって、パティスリーを手伝いに来てくれる少年・ネル君が夕方に必ずお菓子を食べに来てくれる青年・アル様だったのだから。
「皆様はじめまして。僕は世界樹を守る魔法使いの一族が一人。アーネル・クストルスです」
 慇懃な礼とともに自己紹介をするアル様に対して、フィリップ様は顔色を失った。
「あ、あの小間使いが……クストルス一族……」

 クストルス一族とはこの世界の理である世界樹の世話をしている守り人だ。彼らが世界樹を妖魔から守ってくれているからこそ、すべての生けるものはこの世に再び生まれ出ることができる。
 フィリップ様はそれまでの態度を一変させて手を揉みながらアル様の方へ歩みでる。
「嗚呼、世界樹の魔法使い様。不遜な態度を取って失礼しました。改めて、俺はフィリップ・プラクトスと申します。お会いできて光栄です」
 アル様はフィリップ様を一瞥して苦々しい表情を浮かべた。
「伯爵は自分の中で他人の優劣を付ける癖があるね。自分より劣っていると判断した人にはとことん高圧的で、自分より優れていると判断した人には異常なまでに媚びへつらう。誰かの腰ぎんちゃくならまだしも、煮え切らない態度ばかり取るし、人によって態度を変える。……だからいつまでたっても宝物庫管理の職から抜けなせないんだよ」
「んなっ!」
 アル様に痛い所を突かれたフィリップ様は顔を真っ赤にさせる。