「おい、おまえ。何様のつもりでカリナを虐める?」
「婚約者なのに何も知らないの? カリナお嬢様は男爵家が抱える莫大な借金を返済するために高価な宝飾品を盗もうと目論んで王宮入りした。そして宝物庫の中で最も価値の高い秘宝を盗み出したんだ。因みにこのブローチのダイヤモンドも偽物だね」
 ネル君がブローチに息を吹きかけるとダイアモンドはたちまち曇る。本物のダイアモンドは息を吹きかけられるとすぐにもとの輝きを取り戻すはずなのに、ブローチのそれはなかなか戻らなかった。
 これは鉱物石などを採掘する炭鉱夫や取引する商人、それを収入源にしていたキュール侯爵家などの一部の人間でないと知らない、専門的な知識だ。
 子供が普通に暮らしていて知り得る情報ではない。フィリップ様はネル君の得体の知れなさ感じて口元を引き攣らせる。


「どうしてそんなことを子供のおまえが知っている? ただの小間使いじゃないな?」
 尋ねられたネル君が白い歯を見せる。
「国王陛下から直々に我が一族へ依頼があった。王家に代々伝わる秘宝――人魚の涙を見つけ出して欲しいとね」
「こんな子供に陛下が依頼を? まだ妄言を吐くのか?」
 胡散臭そうにフィリップ様がネル君を見下ろしていると、ネル君は再び聞いたこともない言葉を呟き始める。
 すると、その言葉に合わせて身体は途端に変化を始めた。短かった手足がスラリと伸びていき、顔つきも幼い少年から青年へと急激に変わっていく……。
 ふわふわとした少し癖のある白金色の髪に紺青色の切れ長の瞳、目鼻立ちは整ったとても華やかな顔立ちをしている。