「綺麗に手を洗ったんだとは思うけど、指と爪の間にクリームがついている」
 ネル君の指摘にカリナ様は一瞬頬を引き攣らせ、そしてすぐに困った顔をした。
「こ、これはパーティーが始まる前にお腹が空いて食べたスコーンのクリームよ。私ったらうっかりさんだわ」
「スコーンのクリーム? ふうん。なら、言い逃れできないようもう一つ証拠を挙げるね。君のスカートの裾についている汚れ。それはミックスベリーのジャムのシミだよね。この会場内の料理にジャムは使われていない。それからこのジャムには食用花の花びらが入っている。これはシュゼットお嬢様が作ったケーキのもので間違いない。ピンク色で装飾の多いドレスだから気づかなかったみたいだね」
 ネル君が指摘した箇所には確かにジャムのシミと花びらがついている。
 カリナ様は身体をふるふると震わせると、続いて瞳から一筋の涙を流す。

「言いがかりをつけて私を辱めるつもりね? 天使のような可愛い顔をしてとんだ悪魔だわ。あなたは私を虐めて楽しいの?」
 嗚咽を漏らすとネル君が面倒くさそうに側頭部に手を置く。
「悲劇のヒロインぶるのはやめなよ。泣いて気弱な態度を取ることでしか男の気を引くことができないなんて見ていて憐れだ。まあ、そのお陰で伯爵を引っかけられたんだから大した物だけどね」
 それまでしずしずと泣いていたカリナ様がネル君の発言に柳眉を逆立てた。
「酷い。私を尻軽女みたいに言わないでよおっ!」
「おっと、言い間違えたから訂正させてもらうね。あなたはとんだあばずれだ」
「なっ、何ですって!!」
 金切り声を上げるカリナ様に対してネル君は煩わしそうに片眉をぴくりと動かすだけ。