――違う、違うの。私はそんなことしていない。これはアル様とエードリヒ様、それからネル君とラナが協力してくれてやっとの思いで完成したエンゲージケーキ。皆の厚意を踏みにじる真似なんて私にできるわけないじゃない!!
 会場に来て散々周りから陰口を叩かれても無視できた。だけどエンゲージケーキを台なしにされて殺していたはずの感情が堰を切ったように溢れてくる。
 気丈に振る舞わなくてはいけないのに、上手く感情がコントロールできない。はっきりしていたはずの景色が徐々に涙でぼやけていく。
「違う。私じゃない……私じゃ……」
 否定したところで私に味方してくれる人なんてどこにもいない。
 唯一味方になってくれそうなジャクリーン様も会場の雰囲気に呑まれて異議を唱えられない様子だった。申し訳なさそうに眉尻を下げて私を見つめている。
 完全に孤立してしまった私の瞳からは、とうとう涙が零れ落ちた。


 周りの視線が痛い。早くここから逃げ出してしまいたい。だけどここで逃げてしまったら私が犯人だと肯定しているようなものだった。
 身動きが取れなくて苦しい。
 元婚約者の婚約パーティーに引きずり出されたことすら災難なのに、あらぬ疑いを掛けられて犯人に仕立て上げられるなんて泣きっ面に蜂だ。
 ――お店を守るために勇気を出して出席したのに裏目に出てしまった。私のために助けてくれた人たちがいるのに。皆に顔向けができないわ。

 もうどうしていいか分からなくて、息をするのも辛くなっていた矢先――誰かに背中をぽんと叩かれた。
「大丈夫。お嬢様がやったんじゃないって僕は知ってるの。だから泣かないで」
「ネ……ネル、君?」
 後ろか声がして身体を捻ると、そこには悲しげに微笑む美しい少年が立っている。
 ネル君は私から離れると、真っ直ぐにフィリップ様がいるところまで歩み出て、手前で立ち止まった。