私は二人にブランケットを掛けてあげると、うんっと伸びをした。
 オーブンの上にある窓から外を眺めると、濃紺の空がほんの僅かに紫色に染まっている。直にオレンジ色へと変化して朝焼けの太陽が首都を照らし始めるだろう。
 けれど私は太陽を拝む前に力尽きてしまった。ケーキが完成し、安心したせいでドッと疲れが押し寄せてきたんだと思う。
 作業台の椅子に座った途端、私の意識は完全に夢の世界へと引き込まれていった。



「――……お疲れ様、シュゼット令嬢。これ以上、あんな男にあなたの手を煩わせるような真似はさせない。必ず守ってみせるから。そしてすべてが終わったら僕はすべてを打ち明けるから……」
 微睡む意識の中で誰かの囁く声が聞こえてくる。最後の言葉は聞き取れなくて何と言ったのか分からない。ただ起きようとして瞼を震わせていると、マシュマロのようなしっとりと柔らかな感覚が頬に伝わってきて、眠りの世界へと誘われる。

 私はこの感覚が何なのかを頭の隅で考えながら、再び深い眠りへと落ちていった。