「どういうこと?」
「それが、商会長によるとどこかの馬鹿が首都中のいちごを買い占めたらしくて……一粒も在庫がないんですよう!」
「何ですって!?」
「これってどこかの馬鹿じゃなくてあのクソ男の仕業に違いないです! 絶対にそうです!!」

 首都中のいちごを買い占められるほどの財力となると、貴族か裕福な富豪に限られる。だけど私の知る限り、いたずらにいちごを買い占めるような貴族も富豪もいないはずだからラナの言い分はあながち当たっている気がする。

 どうしてこんな嫌がらせをしてくるのか分からないけれど、フィリップ様は私を虐めることに余念がないようだ。
「いちごがないとエンゲージケーキは作れないわね。郊外の街へ行ったら手に入るかもしれないけど……それだと明日の午前中には間に合わない」

 エンゲージケーキが完成しないとお店を守ることはできない。
 脱力した私は側にあった椅子に腰を下ろす。完全に弱り切っていた。
 ラナもネル君も名案は浮かばないようで、もはや万事休すというように天井を仰ぐ。