「耳の先まで真っ赤な反応を見るに、こんな姿の僕でも望み薄じゃないって希望を持ってもいいのかな? ……ねえ、シュゼットお嬢様」
「……っ!!」

 吐息混じりの声が耳朶に触れ、私の顔に再び熱が集中する。柔らかな声はまだ少年らしさがあるというのに凜々しさが交じっている。
 そのせいだろうか。不思議なことにその声質はアル様を連想させ、今度は耳の先までと言わず全身がカアッと熱くなった。
「シュゼット令嬢」
 ネル君は空いている方の手を私の頬へおもむろに伸ばしてくる。


 ……ドンドン。
 突然、厨房勝手口を力強く叩く音が聞こえてきた。助け船が来たと言わんばかりに私はさっとネル君から離れると、勝手口の扉を開けにいく。

 確か今日は材料配達の日だ。この間小麦粉とふくらし粉を大量に注文したから届けてくれる手はずになっている。
「来るのが早いわね。配達どうもありが……」
 相手を確認した途端、笑顔で対応しようとしていた私の気持ちが一気に削がれた。


 戸口の前に立っていたのは品の良い壮年の男性で、彼はプラクトス伯爵家の執事。その背後にいるのは彼の下で仕える侍従だった。