相変わらず私のことをお姫様扱いしてくれるのは嬉しいけどネル君の前でキスされるのは気恥ずかしいからやめて欲しかった。
 ――この歳になってごっこ遊びしているのをネル君に知られるのは恥ずかしいわ。ネル君はまだ子供だけど、恋愛については充分理解している年頃よね。……ちょっと刺激が強かったかしら?

 今度またエードリヒ様がお姫様と騎士の挨拶をネル君の前でしようとしたらやめるようにお願いしないと。
 私がデイジーの花束を眺めながら考え込んでいると、下から声がした。
「お嬢様」
 花束を退けて下を見下ろすとネル君が目の前に立っている。
 いつもにも増して真剣な表情を浮かべているので、私は真摯に耳を傾けるために一旦花束を邪魔にならない場所に置いた。

「改まってどうしたの?」
「ちょっと右手を出してくれます?」
「うん? 構わないわよ」
 不思議に思いながらも、先程エードリヒ様にキスをされた方の手を差し出す。

 ネル君は私の手を両手で優しく掴むと、ぎゅっと力を込めてきた。伏し目がちになった白金色の長い睫毛はネル君の白い肌に影を落とす。
 やがて瞼を閉じたネル君はエードリヒ様がキスしたところに自分の唇を上書きするように落とした。エードリヒ様はいつも触れるか触れないかの軽いキスだったけど、ネル君のキスはしっとりとした柔らかな唇が肌で感じ取ることができてしまうほどだった。
 実際の時間だと一秒も経っていないはずなのに、長い間キスされていたような錯覚に陥ってしまう。

「ネ、ネル君!?」